過去に遡って契約できる契約書

私はツイてない。

なんでもあと一歩のところで届かない。
志望校も最低点に1点足りなかったし、欲しいものは翌日には店舗から無くなってるし、学校イチのイケメンが私のことを好きだと知った翌日には彼女が出来ていたり……。

しかしそれは過去の事。
この契約書の束を使えば悔しい思いをせずに済む。
目の前で売り切れた一点モノのプリーツスカートも手に入れられるし、人気アイドルグループのコンサートチケットも手に入る。
そう、この契約書さえあれば何でも叶う。



「おはよう」
職場の前でニコニコと笑う彼。
見えているのかいないのか分からない糸目の彼とは付き合って2年目。いわゆる職場恋愛というヤツだ。
人当たりが良いがどこか抜けていて、時々心配になる。

日が傾きかけた頃、大口の取引先から激しい剣幕の連絡があった。
彼が担当していた件で不手際があり、取引を打ち切るとのことだ。

仕方ない、あの契約書を使おう。

契約書の束から一枚取り出し、書いてあるひな型に二重線を引き訂正する。
そして契約日と決裁日を書き込む。
すると大きく決裁印が現れる。
これで完了だ。

この契約書はひな型を書き換え、日付を入れると効力を持つ。そして決裁印が現れるとその内容が過去を変えてしまう。



翌日、出社するといつもと変わらない光景だった。
彼は同僚に話し掛けられてにへら、と笑っていた。

変わった過去には誰も気付かない。
あと3枚となった魔法の契約書を大切に使わねばと心に決めた。