やどかり
僕は大学二年になった。新しい生活に慣れようとしているうちに入学から一年が過ぎてしまった。
「ほら、出来たぞ」
「おー、ってまた焼きそばかよ……」
この男、黒根政(マサ)はまるで我が家かのように僕の家で寛いでいた。
「文句言うなら自分で作れよな」
マサは大学に入ってからの友達なのだが、とても馬が合い、悪態をつき合うが嫌な気分にならない唯一の人間である。
「ていうか今日は何で来たんだよ」
「用がなきゃ来ちゃいけねえのかよ、お前は冷たい人間になったなあ、冬場のサドルくらい冷たいよ」
「例えはどうでもいい。ここ数日突然来なくなってただろ」
マサは僕の家に三日と経たずに来るほど入り浸っていた。こんなサイクルは半年以上続いていて、年末年始も一緒だったくらいだ。
「なに、寂しかったの? よしよーし」
「おい、止めろ」
いつもの調子で話してると、一週間以上家に来なくなってたことなんて些細なことに思えた。
文句を言われた焼きそばを二人で食べ、テレビを観ながらダラダラと明日の授業のレポートを進めた。
「んあー、終わり! 寝よ寝よ」
マサはそのまま横になった。
「お前速すぎだろ」
マサが完成させた手書きのレポートを片手でペラペラめくる。
「お前が遅すぎるだけだっての。……写すんじゃねーぞ?」
「まさか。こんな内容の薄っぺらいもの出したら教授にキレられるわ」
「バッカ、内容より完成させること優先だろ」
「あーはいはい」
マサに遅れること一時間、まずまずの出来のレポートをカバンに閉まってそのまま眠りについた。
翌日、遅刻しかけた俺たちは教室まで競うように走った。
「よっす」
授業後、ふらっと現れた巨体に声を掛けられた。